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2014年12月8日月曜日

デザイン思考を知らない研究者たち

先日、研究所の研究者を対象としたセミナーの講師をしてきました。

目的は二つ。

一つ目は研究者に、今後の研究成果の事業化の方向性を考えるきっかけとなる内容とすること、

そしてもうひとつは、研究者が事業化に積極的に関与するよう、意識改革を行うこと、

でした。


「一つ目」については、知財の手続の経験が浅い研究者の方々に

知財を見る際の有益なフレームワークを提示するのみにとどめました。


セミナー後、先方の担当者より、具体的な方法について

興味を示してきた研究者がいたとの報告を受け、

まずまずの成果だったのではないかと思いました。

とかく知財セミナーという場合、研究者に知識の詰め込みをしてしまうことが多いですが、

それでは本末転倒だと、私は考えています。

何のための知財部なのか、なんのための外部の特許事務所なのかを

よくわかっていない人が自分の知っている知識を参加者に埋め込むセミナーは、

自分の仕事(知財部、特許事務所)を楽にするだけでしかありません。

研究者が、負担を感じることなく、知財へ関与できるようなモノの見方を与えることが、

とても重要であると私は考えているからです。


二つ目の目的については、自分がこれまで開発してきた事業化の方法論の概略を

視覚的に提示することで、研究者の意識にかなりの影響を与えることができたと思います。

これまで(10年以上にわたる期間)の成果を凝縮した内容でしたが、

セミナー後、的確な質問も受け、受講者の深層心理になんらかの影響を与えることができた

のではないかと思っています。


セミナー中、研究者を対象に

「デザイン思考」という方法論を知っているか質問してみたのですが、

知っている人は0人という結果。

やはり、研究に携わる人というのは、

自分の専門外のことについては、興味を示して学習するということが、

まだまだ不足しているのだろうなとおもいました。


2014年4月17日木曜日

技術者にとってのイノベーション

科学は、自然物や自然現象を対象として、

それらを的確に把握・理解して真理を追究することである。

技術は、科学的知見を利用し、社会に生かす種をまくことである。

そしてイノベーションは、技術を被利用物として、

社会システムに組み込むための、一連の行動を起こすことである。



科学技術は、対象についての知見・知識を構築することが重要であるのに対し、

イノベーションは、行動のための規範を構築していくことが重要である。

2014年2月5日水曜日

イノベーションのシンプル・モデル

イノベーションの方法論を端的に述べたものとしては、

よく言われる、

Think outside the Box!

というものがある。

「既存の考え、枠組みにとらわれずに考えろ」

ということだ。

しかし、これではあまりにも具体性に欠ける。

何をやってもよいということになり、次の一歩を踏み出せない。

かといって、

事細かに手順まで記載した方法論の解説では、全体像が見えず、

小手先感が大きくなってしまうのも事実であろう。


私が考える、一般性、具体性の双方をもったイノベーション方法論の概略は、

次のようなものだ。


把握⇒理解⇒活動のモデル化⇒モデルの評価
↑_______________↓


「把握」は、技術者にとって盲点となりやすい領域だ。

自らの視点のみに固執して、ユーザーの視点に欠けることが多い。


「理解」は、深入りしすぎると全体を見渡せなくなり、

手段が目的化しやすい領域だ。あくまでも、次のステップ行くための準備段階である。


この二つの領域においては、技術者はマインドセットを変えていく必要がある。


次の「活動のモデル化」は、把握・理解した対象から、

どのような活動を行うかを創造していく領域だ。

モデル自体には論理性を備えつつも、モデルを発想する行為は、creativeなアクションであり、

演繹法、帰納法といった論理的方法ではなく、アブダクションが有効である。

最後の「モデルの評価」は、いわば全体最適化である。


これら4つのステップ(フェーズ)を反復することで漸進的に行っていくのが

イノベーションのシンプル・モデルだ。




2014年1月7日火曜日

デザイン思考(Design Thinking)の属性・特徴---2014年 年頭所感

2013年は、様々な分野でデザイン思考がかなり注目されるようになった年であり、様々なセミナーが開催された年であったと思います。

そのようなセミナーは、単なる講義だけではなく、ハンズオン的な内容のものもあり、デザイン思考の手順を理解するのに大きな貢献があったと思われます。

にもかかわらず、技術者の感覚では、どうしても違和感のあるものだったのではないでしょうか?

このブログでは以前、「デザイン思考を学ぶ理由:科学者とデザイナーの違い」というタイトルで記事を書いたことがありましたが、科学、技術系の人材がデザイン思考に違和感を感じる根底には、デザイン思考の属性(特徴)が影響しているものと私は考えています。

デザイン思考の属性としては、
  1. Ambiguity:漠然性
  2. Collaborative:共同性
  3. Constructive:建設的
  4. Curiosity:好奇心
  5. Empathy:共感(感情移入)
  6. Holistic:全体論的
  7. Iterative:反復的
  8. Non-Judgemental:非決定的
  9. Open mindset:開放的


というものが挙げられています

これらのいくつかについて、個別に見ていきましょう。

Ambiguity:漠然性

科学・技術系の人は、あいまいな事柄、漠然とした事柄を嫌う傾向にあると思います。特に、問題の定義においては、何が問題であるのかを明確化しなければ自らの仕事を進めることができないため、物事の最初の段階で明確化することを基本としていると思います。

デザイン思考では、これとは反対に、物事が漠然的であることを前提としています。問題は、明確なステートメントとして記載可能なものではなく、「問題的な状況」として捉えているのが特徴です。これは、ステークホルダによって、問題の捉え方が異なるという当たり前のことを示しているに過ぎませんが、技術者がビジネスに携わろうとするときに、見過ごされていることでもあります。

Collaborative:共同性

科学技術の世界では分析を行動の中心的規範としているため、基本的には仕事を一人で行うことが可能なものとなっています。

デザイン思考では、これとは反対に共同して行うことを必須の行動規範としています。共同することにより、多様な視点を取り入れ、多様な分野の知識を利用し、多様な基準を適用することで、新たなモノ・サービス(モデル)を構築することができるからです。

Iterative:反復性

科学の分野においても物事を、トライ&エラー的に反復することはもちろんあります。しかし、それは個人レベルの研究において行われるものであって、コミュニティーレベルで反復を強いることは基本的には忌避されるものでしょう。

しかし、デザイン思考においては、あえて複数の参加者を巻き込んだうえで、反復的に物事を進めていきます。技術者的視点で特徴を記載すると、「プロトタイピングという方法によって仮想的モデルを構築し、得られたモノに対しての新たな印象を得るという、一連の行為を繰り返し行っていく」ということになると思います。



このようにしてデザイン思考の属性を見てみると、それらの多くは技術者の行動規範の根底にあるものとは大きく異なっていることがわかると思います。したがって技術系の人間をデザイン思考やソフトシステムズ論的方法論に関与させてイノベーションを起こしていくためには、単に方法論の手順を教えていくだけでは不十分であり、彼らの行動のパラダイムをシフトさせていく必要があると私は考えています。