そのようなセミナーは、単なる講義だけではなく、ハンズオン的な内容のものもあり、デザイン思考の手順を理解するのに大きな貢献があったと思われます。
にもかかわらず、技術者の感覚では、どうしても違和感のあるものだったのではないでしょうか?
このブログでは以前、「デザイン思考を学ぶ理由:科学者とデザイナーの違い」というタイトルで記事を書いたことがありましたが、科学、技術系の人材がデザイン思考に違和感を感じる根底には、デザイン思考の属性(特徴)が影響しているものと私は考えています。
デザイン思考の属性としては、
- Ambiguity:漠然性
- Collaborative:共同性
- Constructive:建設的
- Curiosity:好奇心
- Empathy:共感(感情移入)
- Holistic:全体論的
- Iterative:反復的
- Non-Judgemental:非決定的
- Open mindset:開放的
というものが挙げられています。
これらのいくつかについて、個別に見ていきましょう。
Ambiguity:漠然性
科学・技術系の人は、あいまいな事柄、漠然とした事柄を嫌う傾向にあると思います。特に、問題の定義においては、何が問題であるのかを明確化しなければ自らの仕事を進めることができないため、物事の最初の段階で明確化することを基本としていると思います。
デザイン思考では、これとは反対に、物事が漠然的であることを前提としています。問題は、明確なステートメントとして記載可能なものではなく、「問題的な状況」として捉えているのが特徴です。これは、ステークホルダによって、問題の捉え方が異なるという当たり前のことを示しているに過ぎませんが、技術者がビジネスに携わろうとするときに、見過ごされていることでもあります。
Collaborative:共同性
科学技術の世界では分析を行動の中心的規範としているため、基本的には仕事を一人で行うことが可能なものとなっています。
デザイン思考では、これとは反対に共同して行うことを必須の行動規範としています。共同することにより、多様な視点を取り入れ、多様な分野の知識を利用し、多様な基準を適用することで、新たなモノ・サービス(モデル)を構築することができるからです。
Iterative:反復性
科学の分野においても物事を、トライ&エラー的に反復することはもちろんあります。しかし、それは個人レベルの研究において行われるものであって、コミュニティーレベルで反復を強いることは基本的には忌避されるものでしょう。
しかし、デザイン思考においては、あえて複数の参加者を巻き込んだうえで、反復的に物事を進めていきます。技術者的視点で特徴を記載すると、「プロトタイピングという方法によって仮想的モデルを構築し、得られたモノに対しての新たな印象を得るという、一連の行為を繰り返し行っていく」ということになると思います。
このようにしてデザイン思考の属性を見てみると、それらの多くは技術者の行動規範の根底にあるものとは大きく異なっていることがわかると思います。したがって技術系の人間をデザイン思考やソフトシステムズ論的方法論に関与させてイノベーションを起こしていくためには、単に方法論の手順を教えていくだけでは不十分であり、彼らの行動のパラダイムをシフトさせていく必要があると私は考えています。