知財経営だとか、知財立国だとかが叫ばれて約10年ぐらいでしょうか。
ここのところのトレンドは、すっかり「イノベーション」に変化したように思います。
欧米の経済関係の雑誌、新聞、ブログでの記事において、イノベーションという言葉が
頻繁に見受けられます。
その中で、知財人の立ち位置としては、どこを基準にすればよいのかに
当然興味が持たれます。
参考になる教材としては、私はこの本をお勧めいたします。
「イノベーションの達人-発想する会社を作る10の人材」
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン
この本で取り上げているのは、イノベーションを推し進める10種類の人間です。
イノベーティブなデザイン企業と知られるIDEO内で認識されてきた人間たちです。
この本では、10種類の人材を、大きく3つに分類しています。
(1)情報を収集し、拡散する役割を担う人材
(2)イノベーション実現のための土台やプロセスを作り上げる人材
(3)イノベーションを実現する人材
伝統的知財業務を行っている人で正直ならば、おそらく、
「我々はどこにも関係ないではないか」
と思われてしまうことでしょう。
その通りと思います。
更に悪いことに、この本の冒頭では、
イノベーションを阻害する人材として天邪鬼(あまのじゃく)的人間、
すなわち、全体の空気を一瞬にして悲観的にしてしまう反論を行うタイプの人間が
描かれています。
実は、知財人には、このタイプが多いのではないでしょうか?
とくに、できるタイプと認識されている人に多い傾向かもしれません。
問題解決能力が重要との考えで分析能力を磨いている人は、
ことあるごとに、提示されるものの欠点を見つけるのがうまいものです。
しかし、逆に全体に自発的に提示するものを持ちあわせていないことが多いのも事実です。
「健全な思考を行うための悪魔の代弁者(devil's advocate)の何が悪い」
と考えると思いますが、適用する場面が違います。
このような分析志向での行動は、いわば既存事業を問題なく進めていくような場合には、
問題を予め表出させ、それに対処する計画を練ることができる点で、非常に有益です。
しかし、イノベーションを実現しようとするということは、
「新しいアイデアを発想し、実験し、鼓舞し、確立していくことを目指す」ものです。
新しいことを思い描くだけではなく、行動し、実践していくことが必要なのです。
知財業界で習得したことを、捨てる勇気のない人間は、
イノベーションにかかわらせるべきでないというのが私の持論です。
「悪魔の代弁者」以外にも、新しいことへの「恐れ」や「抵抗」といったものに出くわすこともよくあります。これらはいずれも、クリエイティブなアイデアを作り出すこと自体への悪影響のみならず、それらを試験的に行って予備的な知見を得ようとすることを、イノベータに躊躇させてしまうという面を有していることは、しっていて損はないと思います。
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