2年程前に他のブログサイトで投稿して非常に反響のあったポストを再掲いたします。
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この2、3年で知財経営だとか、知的資産経営とかということを語る人が知財業界でかなり増えた。
このような状況の中、米国の個人発明家の書いた1冊の書籍が米国で波紋を呼んでいる。
タイトルがいかにも挑発的である。
直訳すると、
「特許出願なんかしてはいけない」
というもの。
このタイトルを見て、また著者が個人発明家であることを見て、おそらく日本の大半の弁理士はそっぽを向くであろう。
もちろんタイトルはあくまでもキャッチコピー且つ著者の考えにすぎない。
しかし、その内容には知財関係者が気にかけることはないであろう、多くの大切な視点が示されているので私なりの解釈を含めて、簡単に紹介してみたい。
普段、大企業の知財担当者を相手にすることが多く、更に、今後は中小企業を対象とした知財コンサルを行いたいと思っている方には非常に参考になる書籍である。
1.普段専権業務の特許出願をされている弁理士の方は、顧客が出願する領域の許可率を意識したことがあるのだろうか?
著者はこの点をまず指摘している。
個人発明家にとっては、出願にかかる費用はかなりの金額であり、出願してみたものの特許になるのかどうかは、非常に大切なこと。しかし、代理する側としては、そのようなことを気にかけて仕事をされている方は多くないであろう。正直なところ出願してみないとわからないというのが現実のことが多い。だが個人発明家の視点では、登録率の低い分野ならば、最初から教えてほしかったというのが正直なところである。低いなら低いなりに覚悟がいるであろうし、どこまでやりとおすのかを予め決めておくこともできよう。
しかしそのようなことをアドバイスしてくれる弁理士などいないのが米国の実情。
2.個人発明家にとっては、拒絶理由の内容は理不尽極まりない(特に進歩性、非自明性欠如の拒絶)。
代理人であるはずの弁理士は、特許庁側の視点には詳しいが、専門知識を持たない発明家の視点には疎い。本来、出願人にとっての代理人であるはずが、特許庁側の立場を説明をするに終始してしまい、どちらの代理人なのかがわからなくなってしまう。その結果、個人発明家には費用のみならず、特許出願は時間と労力といった貴重なリソースを非常に消耗させるものとなってしまっている。
弁理士の専門知識として、特許庁がどのように拒絶するのかを理解することは非常に重要なことはいうまでもない。しかし、それを個人発明家の視点で十分理解できるように翻訳し、解決策を引き出す能力ということに関しては、考えたことはあるのであろうか?
3.中小企業や個人発明家は、特許出願’(し、権利取得)することを、彼らの最大の目的とはしていない。
大企業の知財部が特許事務所に出願を依頼する場合には、出願が目的となっているから問題はなかろう。だが中小企業や個人発明家は、他にすることが山ほどあるのだ。そんな彼らに何をどのように提供すれば負担が軽く、効率的なサービスを提供できるのかを是非考えてほしい。
4. なんで、審査にこんな時間がかかるんだ?
まぁ、これは代理人だけの問題ではない。しかし、ビジネスでは時間との勝負であることも多い。この点は、出願依頼を受けるときにアドバイス位はしてほしい。
5.で、結局、いくらかかるんだ?
拒絶理由に次ぐ拒絶理由。勘弁してくれ。ビジネスには予算ってものがあるだろう。
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サービス提供者として、普段、ここまでの苦情を聞くことはそう多くはないと思われます
(書籍内ではもっと辛辣に批判されています)。
怒らずに、たまには真摯に聞いてみるのもいいのではないでしょうか。
この書籍では、これらのことはあくまでも序章にすぎません。個人発明家がビジネスを遂行するための様々な注意点が記載されています。本書の後半部分は、起業のための参考書といえる内容でです。起業家精神に乏しいと思われる方にはとくに有益と思われます。
その中で、知財関係者には特に興味を引かれるであろう内容もあります。
米国で侵害訴訟を起こしたらどうなるのか?
これについては、金銭面を含め、裁判所や弁護士との関係等、普段耳にすることがない情報が赤裸々に記載されています。
このような経験を通じて、著者は、
「特許出願なんかしてはいけない」
という結論に達しています。
タイトルを読んだときには反感を感じていたであろう方も、この説明を読んでどのように印象が変わったでしょうか?
弁理士なら、特許を取得することの大切さ、取得しないことのリスクについては良く理解されているでしょう。
しかしそのような理解と、プライドは一旦置いておき、個人発明家の視点というものを是非理解してみることは、以後のサービス提供に大きな影響を与えるのではないでしょうか。
専門性へのプライドは、一歩、引いてみれば、周りが見えない、単なる専門バカでもあるはず。中小企業、個人発明家相手へのサービス提供は、思っている以上に敷居が高いかもしれません。
以上、米国での話ですが、これを読まれた日本の知財関係者の皆さんはどのように感じられたでしょうか?