CIPOは様々な用語の省略型であるが、
知財人には、Chief Intellectual Property Officerとして
認識されていると思われる。
本日は、CIPOについて。
日経BP知財Awarenessの
CIPOフォーラムには、
CIPOフォーラム設立の目的が次のように記載されている。
“知財を生かした経営”もしくは“経営を意識した知財戦略”を実現するためには,知財の専門知識だけを理解した知財担当者が立案できる従来型の知財戦略(知財自体のマネジメント)では不十分である。すなわち,経営と知財の両方に精通して一貫性を持った戦略を立てられる「CIPO(chief intellectual property officer)」が,経営視点から知財をとらえ直し,経営と知財を密接にリンクさせた形で知財経営戦略を立案する必要がある。
「従来型の知財戦略では不十分である」としつつも、
フォーラム内の記事を見てみると、
大半が法制度の話であり、
フォーラムの目的と乖離したコンテンツを提供している始末である。
いくら目的を掲げても、これでは推進できないであろう。
同じく
日経BPの記事では、
著名なキャノンの丸島氏へのインタビューを通じて、
CIPOに必要な能力について述べているが、こちらはかなりまとも。
具体的な能力として、丸島氏は次の3つを挙げている。
- 知財を事業の観点からみることが可能な人材であること
- 研究開発⇒権利取得⇒活用の知財創造サイクルの全てに対応可能な人材であること
- 知財創造サイクルの核になって、そのサイクルを大きく回せる人材であること
他にも、知財部は知財部のためだけに仕事してはいけないとか、
R&D部門、事業部門と知財部門とが協調・連携した三位一体の
活動をする必要があるとか、
基本的なことが述べらている。
しかし、実際にどのような人間が、どのように進めていけばよいのか、
という具体性に欠ける記事でもある。
海外でも、CIPOという名称が認識されているようであり、
簡潔にまとめられている
記事では、
CIPOに必要な特徴(属性)として、次の5つが挙げられている
- シニアの要職に就く人材であること
- 交渉力のある人材であること
- 互いに独立した様々な「知」をまとめ上げることができる人材であること
- 実行力がある人材であること
- 法律の知識があること
まず、3と5を見てほしい。
法律の知識を有しつつも、それに固執することなく、また、
他分野の知識をも統合することができるということを。
これは、一言でいうと、
物事を俯瞰できる能力を有することといえるであろう。
この俯瞰する能力は、個々人の能力として備わっている
人間固有の能力と思える。また、2の交渉力についても、同様に
人間固有の能力であると考えれる。
そうすると、属性に基づいて最適の人材が居れさえすれば
よいように思える。
だが、実際には、組織上のバックアップが必要であることが、
1をみるとわかるであろう。
1~5の順序は、この記事では意味を持っている。
客観的にどんなに正しい結論を導こうとも、
組織内の部門間の対立や、利害関係がある場においては、
組織全体にとって正しい意思決定を行うことは難しい。
だからこそ、トップの直属の要職である必要がある。
要職に就く者であるからこそ、
CTO、CLO、CFO等のCxO人材との関わりが持てる。
そういった異なるバックグラウンドを持った人材との
交渉力が次に求められる資質である。
この参考資料では、CIPOが担うべき実務として、
IP Protectionや、IP Litigationを含めている。
だが、実際のところ、大企業の場合に、
出願件数が多く、また訴訟に巻き込まれた場合や、事前に予防する場合
の全てにCIPOが直接的に関与することは、
時間的に困難ではなかろうか?
従って、伝統的な手続主体の知財部門は依然として重要であり、
むしろ知財部門はCIPOなど目指さずに、伝統業務に集中すべき
ともいえる。
一方で、CIPOにはCxOレベルの人間に知財を経営の言葉に翻訳して
語る能力が重要と考えられるが、これは伝統的業務の経験を通じては
習得は難しいであろう。
日本に限らず、IPの実務家は、この部分の能力開発に疎いのが
実情ではなかろうか?
伝統的業務の知識を有しているというプライドを捨てずに、
CIPOになることはできない。
知財部門の正統派人材からCIPOを抜擢するのは、
多くの場合、本来期待されるようには、うまくはいかないであろう。